平成20年2月15日
日本学術会議 会長 金澤 一郎 殿
生殖補助医療の在り方検討委員会 委員長 鴨下重彦 殿
学術会議報告書に対する批判書
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扶助生殖医療を推進する患者会「二輪草」
法学博士・桐蔭横浜大学法科大学院教授
世話人弁護士 遠 藤 直 哉
(協力:医師 大谷徹郎、医師 根津八紘)
第1 結論
1 患者不在の報告書である。患者(障害者、弱者)を抑圧し、社会の差別意識を助長するものである。
2 子の福祉を全く保護しないものである。
3 根津医師の代理出産の功績を否定し、会告の禁止では足りないとし、さらに法律で禁止し、患者の人権を侵害し、世論に背くもの。
4 特に、母親の代理出産を否定する理由には全く根拠がない。
5 日産婦会の会告による禁止の状態をやめ、法律で公認する役割を期待されていたが、全く果たしていない。
6 本報告書は、代理出産ではなく養子をすすめるが、本報告書で自白するとおり、「養子」では泣く泣く子を渡す母親及び兄弟から子を引離す点で、「代理出産」(子を渡す意思と義務が明白である類型)より弊害のあることが明らかとなった。
第2 報告書批判
【第1章〜第3章】
P5L8「議論の視点は、人権、特に子の権利、親の権利に置きつつ、基本的な原理や価値に配慮し、多面的・総合的に検討する。」
意見書は「特に子の権利及び親の権利」をほとんど検討していない。
P5L17「我が国では代理懐胎について正確な実態がほとんど明らかにされていない」
根津医師の公表、向井夫婦の発表、FROMにおける報告、小野幸二教授の論文など多くの資料で明らかにされている。
P6L2「代理懐胎とは、子を持つ意思のある女性が、他の女性に対し、生殖医療の技術を用いて妊娠すること」
上記定義には、がんによる子宮の摘出、交通事故などによる子宮の摘出、ロキタンスキー症候群など、その原因が記載されておらず、定義として全く不完全である。患者の代理出産の必要性が全く記載されていない。患者不在の報告書となっている。
P7L19「子の法的地位が明確でないため、社会的環境、成育環境なども不安定になっていることが大きな問題なのである。」
子の法的地位を守り安定させるためには、依頼する夫婦の権利と義務によりこの地位を守ることが必要であり、米国の統一親子法はその目的を達成している。日本のように代理出産を禁止するならば子の法的地位は益々明確でなくなり不安定となる。すなわち、代理母の子であるとすることは、代理契約により養育する意思と義務のない者の子を認めることになる。日本においては判例及び厚生科学審議会報告書、本報告書によってこの地位を益々不明確・不安定にしていることに気が付かなければならない。
P10L23「背景の異なる研究を比較して、代理懐胎の懐胎者の妊娠中の高血圧、異常性器出血の頻度が通常の体外受精におけるよりも低いとする報告(※1)がある」
代理母は、健康体であるので、通常の体外受精の不妊症患者よりリスクが低いことを指している。また、代理懐胎で生まれてくる子について、通常の体外受精よりリスクが少ないとの指摘する論文もある。(Michael Ludwing, Klaus Diedrich「Follow-up of children born after
assisted reproductive technoligies」RBM Online-Vol 5. No 3.317-322)
P10L26「我が国においては、代理懐胎が会告を無視した形で一部の医師により行われていることは報道されているが、データを明らかにすることなく独自に行われていることもあり、医学的データの報告はほとんど存在しない。」
根津医師に対する名誉毀損である。削除するよう求める。
根津医師は、減胎手術、非配偶者間体外受精に始まり、代理出産についても積極的に公表し、医学的ペーパーを提供してきた。代理出産を禁止する産科婦人科学会の会告自体が問題であり、これを公認するような文章を報告書に書くべきではない。この文章自体が日産婦会の幹部によって書かれていることは明らかであり、根津医師を除名し訴訟の当事者となった団体幹部による文章作成をさせるべきでない。日産婦会の幹部は代理出産を実施したこともなく、学識、経験はない人間である。これに対し、根津医師は、亡飯塚先生、鈴木先生を始め、加藤医師・田中医師らも公表せずに実施していた中において、初めて多くの実施を公表してきたのであり、上記「ほとんど報告されていない」などという批判は当たらない。
P10L31「『卵子提供による体外受精』に関する研究(※2)によると、妊娠中の異常出血、妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育遅延、早産が、通常の妊娠に比べて高い頻度でみられる。」
卵子提供を受ける者は、不妊症であること、高齢となっていることなどから、通常の妊娠に比べ、不妊の原因(内膜症・骨盤内癒着など)によるリスクを伴うことが明らかとされている。しかし、代理母は不妊症患者ではない。
P10L33「この原因として、懐胎者の性機能の不全や胎児が懐胎者と遺伝的共通因子を全くもたない不適合性が考えられる」
全くの誤りである。不適合性ではなく、上記のとおり卵子提供を受ける者の不妊原因が問題である。
P10L35「後者は代理懐胎においても同様の条件と考えられるので、」
全くの誤りである。「同様の条件」ではない。なぜなら、不適合性は問題ではなく、代理母は不妊症ではないから、不妊症の欠陥をもたず、リスクを負わないのである。
P10L35「このような妊娠中の異常は、代理懐胎においては通常の妊娠より高い比率で発症し得ると考えられる。」
上記の誤った推論による誤った結論となっている。何らの引用文献はない。代理母においては、一般の体外受精よりリスクは少ないとの文献報告のみである。
P11L1「妊娠の母体から子への物質の移行にともない、移行物質の直接作用、およびDNA配列の変化を伴わない遺伝情報の変化(エピジェネティック変異)により出生後の子の健康状態に影響が及ぶことが示唆されている(※3)。・・・・・・・・・・代理懐胎では、胎児は代理懐胎者の健康状態の影響を直接受けることとなり、代理懐胎の子に及ぼす影響の評価は今後の研究に俟つべきものが多い。」
母体について健康か異常かが子に直接影響することは、あり得るとした場合、代理母が健康であれば、子も健康となることは通常分娩と変わりはない。※3は、動物実験の論文であり、かつ動物の代理出産の論文ではないものを、なぜ引用するのかばかげている。
P12L23「絶対的適応の場合とは異なり、相対的適応となる女性か否かを、合理的な根拠をもって明確に定めることは極めて困難である。そのために、適応の範囲を定めたとしても、その医学的適用の範囲が拡張されて行く可能性があり、将来、自身で妊娠せずに子をもちたい希望を有する女性などについてまで拡大されてしまうこともありうる。」
がんを理由を子宮を摘出した患者やロキタンスキー症候群など、絶対的適用だけを考えれば十分であり、相対的適用は将来の課題とするだけでよい。目の前の課題の答えを出せない者は、未来の課題を論じる資格はない。
P12L30「代理懐胎において比較的高齢の女性が懐胎する場合には、高齢妊娠の要因により妊娠中の異常がさらに増加することが懸念される(※4)」
全くの誤りである。※4は、代理懐胎の文献ではない。卵子提供の文献及び一般の高齢出産の文献である。日産婦会は虚偽と偽装の常習犯である。日産婦会のホームページに出ている「着床前診断の平成18年見解」は、完全なる偽装表示である。
P14L21「仮に代理懐胎契約を認めた場合、かかる契約の締結について強制や誘導が生じることが懸念される。これは、特に、姉妹、親子の関係において代理懐胎が行われるときに生じる可能性がある。」
臓器移植、輸血、骨髄バンク、解剖の献体など、すべて同じ問題であり、日本は今や自己決定権に任せる成熟した社会となりつつある。
P14L40「懐胎者という第三者の協力を得て行われる代理懐胎が、同じくドナーという第三者の協力を得て行われる生体臓器移植と決定的に相違するのはこの点である。」
意味不明である。代理出産は生体臓器移植よりは、容易な課題であることに対する反論にはなっていない。
P15L6「特に代理懐胎を認めない場合は、それにもかかわらず施行されたときや、日本人が海外で代理懐胎を受け帰国したときの出生した子の福祉について、特段の施策が必要となろう。」
子の福祉が最も重要であり、上記のとおり言うが、本報告書では何らの提言がされていない。依頼夫婦の子であることを断定すべきである。
P16L19「いわば役目を終えた懐胎者のその後にも注意が払われなければならない」
ボランティアの代理母の場合には、依頼夫婦及び社会から感謝され、そして謝礼を受け取り、満足を得る。向井亜紀さんの著書をよく読むべきである。母親の場合には、その後、孫と楽しく過ごす老後が待っている。何の注意を払うのか意味不明である。
P16L22「母親から生まれてきた自分の同胞と思っていた子が出生と同時に自分から引き離されることとなり、」
代理母が母親の場合には、引き離されることはない。孫と楽しく過ごす大きな喜びが待っている(ちなみにこの点は、養子の方が、より深刻といえる)。
P17L13「懐胎者にとって最良と考えられる医療行為と依頼者の希望とが必ずしも一致せず、依頼者が希望する医療行為を懐胎者が承諾しないことが起こり得る。」
代理母の健康状態の配慮と、治療行為が優先することは当然であり、医師の方針や倫理は明確である。
P17L24「代理懐胎で生まれる子になんらかの障害がある場合、もしもその障害が妊娠中に診断されたならば、依頼者がその診断を受容しうるかが懸念される。」
依頼者が、障害について、自己決定権に基づきどのように決断するかが決まるのであり、矛盾は生じない。
P17L30「出生後に子の障害が判明した場合には、その子の引取りを依頼者が拒否するおそれもある。」
代理母が母親の場合には、同じ家族であるので、引取り拒否自体が起こらない(ちなみに、依頼者には引取り義務があり、一般の出産と同じである)。
P19L9「出生後は子をその者から引き離すものであり、」
代理母が母親の場合には、孫であるので引き離されるわけではない(ちなみに、養子の場合には、より深刻である)。
P19L35「学会が倫理規範として自発的に定める会告で対応してきたのは、この観点からも妥当なことである。現在問題とすべきなのは、上記の会告だけで十分か否かである」
現在も学会の会告で禁止されている状態である。法律で代理懐胎を禁止するならば、これを強化することとなる。現在まで根津医師だけが行っているのであり、禁止を続けるならば何ら法律を作る必要はない。法律を作るとすれば、根津医師に禁止の効果を持たせるという意味しかなくなっている。すなわち、この報告書は根津医師の歴史的な実績を否定し、患者が求めている会告の廃止どころか、患者の意向を全くつぶして、より権力的な弾圧を加えるものである。
P20L19「行政指針は法的強制力を有しないばかりでなく、重要な医療倫理問題をはらむ代理懐胎に関しても、その決定を行政庁に委ねてしまうことであり適切とは思わない。代理懐胎を何らかの形で規制するとするのなら、国民の代表者たる国会議員が、法律を作ることによって行うべきである。」
行政的指針は、会告よりも少しは法的拘束力を有するのであり、多用されているのであり、なぜ法律まで必要か不明な論理である。法律家としてソフトローの知識が全く不足している。
P21L34「この場合には、被害者である懐胎者は処罰の対象から除外されることになるが、その『営利の目的』を認識していながら依頼した依頼者は処罰の対象とすべきである。」
営利の目的を有する者は、斡旋業者であり、売買防止法のように、斡旋業者のみを処罰すれば足りる。懐胎者、依頼者、医師は処罰の対象外とすべきである。搾取をし、営利を受けるのは斡旋業者のみであり、被害者は懐胎者、依頼者、医師であるからである。
P23L29「保険医の登録を取消すことができる・・・・・・医師の保険医の指定を取消すことが可能となる。」
保険医の登録の取消しとは、保険診療に関する不正行為などに関係することに限定される。保険診療に関係のない代理出産に関し、保険医の取消しをすることは憲法違反となり、不可能といえる。
P24L10「法律が代理懐胎は違法行為であることを宣言することは、医療関係者を含めた国民一般に一般的倫理規範の存在を認識せしめ、それを遵守する意識を高めるであろう。」
日産婦会の禁止の会告により、あえてそれを実行する医師は全くいない。実行しているのは根津医師だけである。それ故、法律をつくる必要がないということになる。
P25L11「懐胎者が高齢者でないことなどその健康への影響を抑えること、」
代理母は母親であるのがベストの選択であるので、このような結論は不必要である。健康な母親は、高齢であっても卵子提供を受ける不妊症患者より、リスクは少ない。
P25L23「代理懐胎の一部容認は全面解禁へとつながり、『蟻の一穴による堤防の決壊』、『滑りやすい坂道の上に立つこと』になることも危惧される」
ホモセクシュアルやレズビアン、同姓婚などは、蔓延すれば人類は子供を産めなくなり、人類が破滅する。しかし、一部の人間に留まっており、『滑り坂』に落ちてはいない。代理出産はこれを必要とするごくごく一部の患者のためのみであり、『ダムの決壊』などということは全く考えられない。
P25L33「日本はもちろん国外においても、代理懐胎の是非を判断するに足る十分な科学的なデータは存在している訳ではない」
代理出産の先進国アメリカの資料は読み切れないほど膨大にある。研究者がこのような資料も調査せずに報告書をまとめたものは全く価値はない。
P25L39「社会に対してどのような結果をもたらすかを詳細に調査研究し、その結果をまって、代理懐胎の方向についての判断を改めて下すことが必要である。」
庶民(世論及び読売新聞)はすでに、代理懐胎につき、賛成の意向を示している。学術会議は詳細に調査研究する予定であったものをせずに、先送りするだけであり、そうであるならば、現在の世論の決定に従うべきである。ましてや根津医師の歴史的功績が社会に認められてきた現状において、学術会議が根津医師の行為を禁止する結論を出すならば、それはまさに研究者の良心に反するばかりか、研究者の立場を利用した権力的統制でしかない。亡飯塚理八教授が、生殖医療に対する国家的統制に対し、強い反対の意思表示をしていた。その弟子たる吉村教授が、開業医の実績を認めたくないために、このような結論を強制し、そして法律学者がこれを追認するということは、繰り返し繰り返し同じ過ちを行い、全くの税金の無駄遣いでしかない。
【第4章】
P13L5「養子または特別養子縁組によって、代理懐胎によって生まれた子と依頼夫婦との間に親子関係を定立することは認めてよい。」
養子と特別養子とは全く異なる。養子では、代理母と子との親子関係は継続する。特別養子ではこれが切断される。よって、特別養子でなければならない。しかし、特別養子でも、血縁の証明は必要と考えられて、戸籍を追えば親子関係が分かるようになっている。しかし、代理母と子との間に、血縁はない。血縁関係を示す特別養子制度は不要ということになる。子は依頼夫婦の子とならざるを得ない。
第3 代理出産先進国米国−憲法上の権利
辻村みよ子(東北大教授)委員は、憲法学者として、一人孤軍奮闘され、貴重な意見を出されたが、報告書には全く反映されていない。本報告書のまとめかたには、重大な欠陥がある。以下のとおり、憲法上の課題がほとんど検討されていないことである。
米国では、生む権利・生まない権利が下記のとおり憲法上の基本権として判例で保護されてきた。最近でも2003年に、ホモセクシュアル禁止のソドミー法を違憲とした。現実には、ほとんど発動されていない法律であるが、法律の存在だけで社会の差別意識が助長されるという機能があるため、完全に法律を死滅させたものである。当然のことながら、商業的代理出産以外の代理出産は、憲法上の権利として認められている。裁判所は、カルバート事件、ブザンカ事件などにおいて、子の福祉と利益を最も重視して保護する判決を出してきた。そして、これを受け継いで統一親子法を作成した。米国の積極司法に対して、日本は消極司法、放置主義であり、司法が逃げるから、法律が必要となり、患者、障害者、弱者の保護に法律が求められる。そこで逆に、障害者差別を助長する法律ならば当然に阻止されねばならない。
【米国の判例】
(1)1942年 Skinner v. Oklahoma
連邦最高裁は、精神障害者に対する断種法を違憲とした。
(2)1965年 Griswold v. Connecticut
連邦最高裁は、避妊具の使用と販売を禁止する州法を違憲とした。夫婦の寝室の聖域な領域を唱えて、夫婦のプライバシーの権利を打ち出した。
(3)1967年 Loving v. Virginia
連邦最高裁は、白人と黒人の結婚を禁止する法律を違憲とした。
(4)1972年 Eisenstadt v. Baird
連邦最高裁は、未婚の者に避妊具を交付することを禁止し、医師が結婚した者にのみに交付することを許しているマサチューセッツ法を違憲とした。すなわち、プライバシーの権利に意味があるとすれば、それは既婚であろうと、未婚であろうと問わず、子を生むか生まないかの決定のように、人に重大な影響を及ぼす事柄について、不当な政府の介入を受けないと言う個人の権利であるとした。
(5)1973年 Roe v. Wade
連邦最高裁は、女性は、胎児が子宮外で生きることのできる前であれば、中絶する権利を有するので、政府はこれを禁止することはできず、禁止する場合には厳格審査を要するとした。全面的に妊娠中絶を禁止した州法を違憲とした。その後、紆余曲折があったが、基本的な考え方は維持されている。
(6)2003年 Lawrence v. Texas
連邦最高裁は、ホモ・セクシャルの性行為を禁止する州法「ソドミー法」を違憲とした。
(2003年、マサチューセッツ州連邦裁は、同姓婚届出を拒否することは州憲法に違反するとした)。
以上のとおり、米国では、「結婚する権利、生む権利、生まない権利」は、平等保護条項、デュープロセス条項、合衆国憲法第14条修正などによって、確立した権利、つまり「基本権」(a fundamental
right)としてしている。「厳格審査」を要するとしている。精神的自由の制約に必要な「厳格審査」を要求している。自由を制限する政府や社会的権力の側に明確な強い証明責任が科せられる。商業主義以外の代理出産の規制は、憲法違反として許されないとされている。